桃ちゃん生活。〜スウィートバレンタインデー〜

「これがキャプテンからでぇ、こっちがりさこからでしょ〜」


レッスンから帰ってくるなり、桃子がニコニコしながら小さいピンク色の箱やら、ハートの模様が描いてある袋やらを鞄から出し始めた。
今日は年に1度のバレンタインデー。どうやらベリーズのメンバー同士でチョコレートの交換をしてきたようだ。
しかも、毎年みんなひとり一個、それぞれチョコレートを用意するということらしい。
だから昨日、普段は料理なんかやりもしない桃子が悪戦苦闘しながらも頑張って手作りチョコレートを作っていたわけだ。
他のみんなが手作りを持っていくと予想される中に、ひとりだけ買ったものを持っていくというのも、負けず嫌いの性格が許さなかったのだろう。
その代わり、言っちゃ悪いが桃子は料理が相当出来ないので、チョコのお味は想像を絶するものになっているはず…。
Berryz工房のみなさん、ご愁傷様です…。


そんなことはお構いなしに、貰ったチョコレートをテーブルいっぱいに並べ「どれから食べようかなぁ〜♪」とか言いながら、それぞれのチョコレートを観察している。
「りさこのは相変わらずおいしそうだなぁ。この徳さんのは見た目は悪いけど、本人は絶対おいしいって言ってたし…」
私はそんな妹の様子を微笑ましくみていたが、目の前にこんなにたくさんのチョコレートがあるとやはり自分も食べたくなってくる。


「これ、おいしそう」
たぶん、1個くらい食べても大丈夫だろう。
そう思いながら、私が赤い水玉模様の箱に入ったトリュフチョコを一粒手に取ると、
桃子が物凄い速さで「とっちゃだめー!」とチョコを持っていた手を叩いてきた。
「これはゆりからなの!絶対に、ぜぇ〜ったいに誰にもあげないんだからぁ!」
私は「わ、分かったよ…」と小さく言って、チョコレートを元あった場所に戻した。
桃子、そんなに友理奈ちゃんが好きなのかぁ…。
その友理奈ちゃんから貰ったというチョコレートは1番最後に食べる、とでも言うかのように、少しだけ端によけてあった。


すると桃子がちょっと意地悪っぽい笑みを浮かべながらこちらを見てきた。
「おねーちゃんも、チョコほしいの?」
…図星であったが正直に欲しいといってもなんか悔しいのであえて黙っていた。
「ねぇ、欲しいんでしょぉ?ねぇねぇ」桃子がじりじりと詰め寄ってくる。
「実はねぇ、みやからおねえちゃんにって貰ったんだけど…」
「ええええええええええ!?!?!?」
うわ。「みや」という単語が出てきただけで思わず反応してしまった。
あまりの自分の驚きように、桃子も少々びっくりした様子だった。
で、でも、あのみやびちゃんが自分に…?もう嬉しくて嬉しくて天にも昇る思いだ!


「ど、どんなやつなの?早く見せて!」
興奮しながら桃子に呼びかける。が。
「…なに本気にしてんのぉ?(笑)」
「ほんき…?」
「う、そ、だ、よ! う、そ!」


_| ̄|○


正直思い切り凹んだ。何で寄りによってこんな嘘を…。
いっぺん山の頂上まで登ってからいっきに谷底に突き落とされたような、そのくらい自分にとって大きなダメージを受けた。


しばらく立ち直れず_| ̄|○のポーズをして落ち込んでいると、
「ふーん…そんなにみやから欲しかったんだ…」
桃子がちょっと皮肉っぽく言ってきた。
「みやからじゃなきゃ、嫌なの?」
「べ、別にそんなことはないけど」
「じゃー可哀想なおねえちゃんに、ももからプレゼント!」
へ?と思って顔をあげると、そこには・・・




チョコレートの入った箱をこちらに向かって差し出している桃子の姿があった。


しばらく状況が掴めない私はしばらくその姿をボーッと見ていた。
まさか桃子から貰えるとは…。全く予想もしていなかった出来事だけに余計驚いた。
「いらないならあげない」
私がいつまでも受け取ろうとしないからか、桃子がちょっと怒ったフリをして持っていた箱を後ろに隠した。
「そんなことないって…!どうもありがとう。」
私は慌ててチョコレートの箱を受け取った。
すると桃子は少し照れくさそうに、「どういたしまして♥」と呟いた。


箱のラッピングは桃子にしては珍しく、シンプルなものだった。
ピンク色のリボンをほどくと、そこにはとてもおいしそうとは言えない格好のチョコレートが入っていた。
桃子は「ハートのかたちにしたんだぁ」と言っていたが、誰がどう見てもハート型には見えなかった。


「か、形はちょっと変だけど…、味はめちゃくちゃおいしいんだからぁ〜!!!」
桃子は自信ありげに言ってきた。
ホントかな…って思いながら、恐る恐る一口かじってみると、甘い甘いチョコレートの味が口いっぱいに広がった。
「ね?おいしいでしょ?」
桃子がチョコを食べている私の顔を覗き込むようにして言ってきた。
確かに不味くはない。この甘ったるさがいかにも桃子らしかった。
「うん、桃子にしては上出来だよ」
「桃子にしては、ってどういう意味よぉ〜」
そう言って、ちょっと拗ねた様子でぷいとそっぽを向いてしまった。
私がすぐさま「ごめんごめん」と謝ると「ホントに悪いと思うなら全部食べて」と無茶なことを言われた。
正直、これを全部食べたら糖尿病になりそうだ…。
それでも全部食べないと許してくれそうになかったので、途中何度も挫折しそうになったが、なんとか食べきった。
すると桃子は急に笑顔になって「ホントに食べてくれたんだ!うれしい♪」と言って抱きついてきた。
そのとき、桃子からふわりと甘い香りが漂ってきた。
その香りから何とも言えない心地よさを感じた私は、このまま時が止まればいいな、と思った。